不動産を売却する時は、当然本人が売買契約を結びます。ただ、年老いた人の場合は、病院や介護施設からの外出が難しかったり、体力の低下などによって売買手続きに耐えられなかったりします。
そんな時は、誰かが本人の代わりに契約手続きをすることになります。
本人が売却の意思を明確に表示できる場合
本人が認知症等を患っておらず、売却の意思を明確に示せる場合は、「委任状」を作成することで、子供などが「代理人」として売買手続きができます。
委任状の作成
委任状のフォーマットに関しては、法的に定めがあるわけではありません。従って、ネットの検索機能を利用してテンプレートをダウンロードしても良いですし、不動産業者が決まっているのなら、見本を見せてもらうこともできます。
なお、委任状には実印を捺印し、委任した人の印鑑証明書と住民票を添付します。
一方、買主にしてみれば、不動産を購入した後で、本人から『売った覚えはない』と言われてしまうと身も蓋もありません。
そこで、正当な代理人かどうかを調査するため、売買を仲介する不動産業者は本人に連絡し、売却の意思と代理の依頼を確認することになります。
本人が売却の意思を明確に表示できない場合
代理人を選任する場合は、『私は〇〇を代理人に任命します』という自分の意思がハッキリと示せなければなりません。
認知症が進んだことで、本人に「意思能力が欠落」と判断されると、委任状があっても売買契約は無効になります。
成年後見制度の利用
成年後見制度とは、本人が認知症などによって「意思能力が欠ける状態」となり、法律行為ができないと判断された場合に、本人の権利を守る制度です。
家庭裁判所に選ばれた「成年後見人」が、本人の代わりに法律行為を行うことになります。
成年後見人となるのに、特別な資格は必要ありません。未成年者や破産者、過去に法定代理人を解任されたことがある人などを除けば、親族でもなれます。
ただし、親族間で意見の対立がある場合、本人に継続的収入がある場合、本人との間で利害関係がある場合などでは、第三者が成年後見人に任命されます。
その場合は、弁護士や司法書士などが後見人に任命されますが、当然一定の報酬が発生します。
なお、不動産の売却が終了しても後見人が解除されるわけではなく、本人が亡くなるか、意思能力が回復するまで継続されます。
成年後見制度の利用方法
成年後見人の選任を家庭裁判所に申立てると、家庭裁判所による審理が行われ、成年後見人が選任されます。
さらに、成年後見人が本人の自宅を売却する場合は、「居住用不動産処分の許可の申立て」を行い、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
まとめ
親の不動産の売却を代わって行う場合は、親の意思表示の能力によって、方法が委任状と成年後見制度に分かれます。いずれにしても、余裕を持った日程で行うことが必要です。
不動産の売却に伴う所有権の移転
不動産の売買は洋服や家電製品とは違い、所有権の存在が曖昧です。洋服や家電製品は代金を支払って商品を受取れば、その時点で所有権が自分のものになります。
ところが、不動産の売買は登記を行わないと、所有権の存在が明確になりません。
所有権の移転
「所有権」とは、物を自分の自由に使用したり、売却したりすることのできる権利のことです。
そして民法では、所有権に対し「当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています。
従って、不動産であっても、売主と買主の間で契約を交わせば、所有権は売主から買主に移転します。
法律では、所有権の移転において、代金の支払いや登記の実施という条件は付されていません。そこで、不動産売買では、所有権の移転に関する取り決めが必要になります。
代金の完納時において所有権が移転という特約
売買代金が完納された時点で、所有権が移転するとの特約があったとします。
買主が売主に対して代金を完納
買主が代金を全額を支払った時点で、所有権は売主から買主に移転します。従って、売主が所有権の移転登記をしなかったとしても、買主は所有権を主張できます。
不動産売却のしおりから不動産の売却情報を掲載しています。
コチラからhttps://fudousan-baikyaku-shiori.jp/ikkatusatei/
移転登記の前に売主が死去
買主が代金を全額を支払った後、売主が所有権の移転登記をしない内に死去したとします。
この場合、買主の所有権はどうなるのかという問題が生じます。民法では、「不動産に関する物権の変更は登記をしなければ、第三者に対抗することができない」としています。
また、第三者というのは、「物権変動の当事者及びその包括承継人」以外の人と規定されています。従って、相続人は被相続人の包括承継人に当たるため、第三者にはなりません。
つまり、代金を全額支払った買主は、売主の相続人に対して所有権の移転登記を主張できます。
売主が第三者に二重売買し、第三者との間で登記終了
売主が買主の他に第三者とも売買契約を交わし、その第三者との間で移転登記を済ませていたとします。
この場合は、「不動産に関する物権の変更は登記をしなければ、第三者に対抗することができない」の規定が適用されるため、買主は第三者に対して所有権を主張できません。
仮に、代金を完納したのが第三者より早かったとしても関係ありません。買主は売主に対して、債務不履行における損害賠償を請求するしかありません。
まとめ
民法には「契約自由の原則」があり、また「法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」となっています。従って、口頭で約束しても、所有権は移転します。
ただし、取引の安全性と確実性を維持するために、不動産売買では代金の支払いと移転登記の取り決めを明記しています。
また、不動産の場合は、移転登記をしていないと、「第三者」に対して所有権を主張できません。